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巨大地震に耐える新型免震構造の積層ゴム支承の開発に成功
~従来比ほぼ2倍の地震動に耐え、学校や公共建築にも有効~
東京都市大学工学部(東京都世田谷区)建築学科 西村功教授ら研究チームは、このほど従来品と比較してほぼ2倍の地震動に耐える新型免震構造(※1)用積層ゴム支承(※2)の開発に成功し、2016年3月に日本建築学会構造系論文集および米国で開催された国際会議(SPIE)にて発表しました。
現在、免震部材として2年後の実用化を目指し製造メーカーと共同開発を行っています。
本研究のポイント
●今回開発した積層ゴム支承は、従来品に比べ、変形性能が大幅に向上したことから大変形領域で座屈(※3)せず、これにより小型化にも成功しました。
●今回の研究開発は、ソリトン波と呼ばれる安定な非線形(※4)波動の方程式と積層ゴムの非線形座屈方程式が一致する点に着目し、大変形時の安定条件を数理的に導き、これを応用したものです。
●具体的な対象としては、巨大地震動の発生時にも機能維持が求められ、防災拠点ともなる小中学校、病院、消防署公共施設など比較的低層の建築です。新型免震構造により、従来と比較してほぼ2倍の地震動に耐える建築が実現できます。
開発の概要
古くから存在していた免震構造の概念が実用化されたのは、建物の重量を安定的に支持し水平方向に大きな変形を許容することのできる積層ゴム支承が発明されて以降です。我が国では、免震構造建築の第1号が実用化されて30年以上が経過し、既に実用化段階から普及段階に至っています。 現在市販されている免震構造用積層ゴム支承(写真1)は、大型の円形断面で扁平な形状かつ鋼板とゴムのシートが交互にサンドイッチされた構造となっています。しかしゴムは非常に柔らかい材料であるため、変形の増大とともに鉛直荷重を支持する能力が徐々に低下し、最終的には座屈とよばれる現象が発生して支持能力が失われます。
よって、大地震や長周期地震に対応するために、さらに直径の大きな積層ゴムを製造する必要がありますが、コストの増大や技術上の困難に直面しています。また、中小規模の建築物は重量が軽いため直径の小さな積層ゴム支承を用いなければならないことから、許容できる水平変形が少なくなり、大地震に耐える免震構造を実現する場合の技術的な課題となっています。
そこで、当研究チームは小型(直径が小さい)で、かつ大きな変形にも座屈しない積層ゴム支承を実現し、2倍の地震動に耐えうる免震構造の実用化を目標として研究開発を行いました。今回開発した積層ゴム支承は、鉛直軸力200トン、水平変形能力500mm、固有周期3秒の目標性能を満足するもので、3 階から4階建ての鉄筋コンクリート構造建物を免震構造にすることができます。
本学世田谷キャンパスの構造実験棟において行った実験写真を写真2、水平変形方向の反力と変形の実験結果を図1に示します。これらの実験結果は、従来の市販品と比較してほぼ2倍の変形性能を有し、当初の目標を達成しました。
研究の学術的な背景
研究代表者(西村)は、積層ゴム支承の鉛直荷重の支持能力と安定性について、理論研究と実験研究を継続してきました。その結果、積層ゴム支承の座屈性能について、従来の座屈理論と一線を画す全く新しい安定条件が存在することを発見しました。
非線形波動と呼ばれる研究分野に、ソリトン波という安定性の高い波動現象があります。このソリトン波動は2つの不安定要素が互いに打ち消しあって、安定な形状を保つことが知られています。(非線形性と分散性)またゴムの座屈問題では、ゴムが伸びて長さが長くなることによる不安定性と水平方向に大きく変形することによる不安定現象の2つが打ち消しあって、安定な構造となることが理論的に予想されていました。(境界条件の非線形性と微分方程式の非線形性が打ち消し合う)
両者は全く異なる物理現象ですが、同じ微分方程式で表せることが数理的に導かれ、積層ゴム支承が座屈しない理由を物理的に説明できるようになりました。この数理的に興味深い研究成果を、有用な工業製品に応用したものが今回の研究成果です。
具体的には、図2に示す3タイプの積層ゴム支承を数値解析すると、最も細長い形状の部材は座屈荷重そのものが低いにも関わらず、大きな変形が発生しても鉛直荷重を支持することが可能であると結果が出ました。基礎研究段階では、図3のAタイプの試験体を作製し、実験により理論予想の正しさを実証しました。(写真3)今回の研究開発では、この原理をより大きな積層ゴム支承に適応し、中小規模の建築物の免震構造に応用したものです。
実用化と課題
今後は、国土交通大臣による認定を取得し、一般的な免震構造建築の設計に使用できる部材として実用化を目指します。免震建築を設計する手法についても、広く構造設計事務所に周知し、中小建築物や公共建築物への免震構造の採用を薦める計画です。今回開発に成功した積層ゴム支承よりも大きなものを製造できるようになれば、超高層建物用の積層ゴム支承についても高性能化と低価格化を両立することが可能となります。
現在西村研究室では、積層ゴム製造メーカー、建設会社、構造設計事務所、研究機関など十数社からなる研究会を主催し「参加企業間における情報共有と開発促進、高性能な免震建築の普及」を共通の目標とし、2年後の実用化を目指しています。
用語解説
※1 免震構造:積層ゴム支承で支えられた建築構造で、耐震性能の高い構造形式
※2 積層ゴム支承:鋼板とゴムを重ね合わせて製造した構造部材で、免震構造の主要部材。
※3 座屈:重い建築物を支える柱などが、水平変形の増大によって急激に剛性(※5)が低下して重さを支えることができなくなる現象。座屈荷重が小さいと座屈しやすく、柱が長いと座屈しやすいと考えられていた。
※4 非線形:構造解析の条件に、大きな水平変形が生じた効果を考慮すること。
※5 剛性:ばねの柔らかさの程度。積層ゴムは鉛直方向に固く水平方向に柔らかい。言い換えると、鉛直剛性は大きく、水平剛性は小さい。
主要研究者
・ 西村 功 (東京都市大学工学部建築学科 教授)
・ 鈴木 敏志(愛知工業大学工学部建築学科 講師)
・ 沼上 清 (東急建設株式会社技術研究所 所長)
補足
本研究は2012年度から14年度にかけ、国土交通省建設技研究開発助成制度の助成を受けました。
【関連するリンク先】
~報道関係者からのお問い合わせ先~
・東京都市大学工学部建築学科
教授 西村 功(にしむら いさお)
・学校法人五島育英会(東京都市大学グループ)
法人本部広報室 担当:山本・高桜(たかざくら)
Tel: 03-3464-6916