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東京都市大学総合研究所 ゲルマニウム量子ドットをベースとした室温発振レーザーを可能とする極めて高効率に発光する電流注入型の発光デバイスの開発に成功
〜シリコンレーザー実現に向けさらなる前進を達成〜
東京都市大学総合研究所のシリコンナノ科学研究センター(東京都世田谷区、センター長:丸泉琢也)では、シリコン(Si)をベースとした室温発振レーザーを可能とする極めて高効率に発光する電流注入型の発光デバイスの開発に成功いたしました。
今回開発した発光デバイスは、新規な微小共振器構造を採用することで、従来に比べ、発光効率の向上と、発光スペクトルの先鋭化を実現するもので、今後のシリコンレーザー実現に向けて、飛躍的な前進をもたらすデバイスとなります。この開発により、チップ内やチップ間の信号伝送を、遅延や発熱が避けられない電気信号を用いることなく、高速、無損失な光信号で行う光インターコネクト技術を、シリコン系材料を用いて実現する事が出来ると期待されます。なお、本デバイスは、2010年5月に本研究センターが開発した発光デバイスを基本コンセプトとしています。
本デバイスは、人工原子と呼ばれるゲルマニウム(Ge)の量子ドットを新たに開発したフォト ニック結晶微小共振器(Photonic Crystal Micro Cavity)という新たな光学デバイス用の構造と組み合わせることで、室温において、従来に比べて、波長の幅が極めて狭く、また強度の大きな発光を電流注入により初めて実現することができました。これは、VLSI(Very Large Scale Integration)と呼ばれる半導体集積回路の性能を、飛躍的に向上できる光配線を可能とするもので、これまで電気信号としてのみ情報を処理していたVLSIに、光信号処理を可能とする革新的な技術であり、世界的に熾烈な研究開発競争が繰り広げられているテーマとなっています。
なお、この研究は文部科学省の「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」(次世代LSIに向けた新機能シリコン系ナノ電子・光・スピンデバイスの創出)並びに科学研究費補助金基盤研究(A)『革新的ゲルマニウム光電子融合素子の実証とそのシミュレーション技術開発』の一環として実施されたものです。
【開発背景】
シリコン系の材料は間接型半導体と呼ばれ、発光効率が非常に低いためにこれまで発光デバイスの材料としては不適当と考えられており、シリコン製のVLSIに発光機能を付加することはこれまで困難とされていました。
この問題点を解決するため本研究センターでは、電子を極めて狭い領域に閉じ込め、発光再結合確率を増やす量子ドットという構造をGeを用いて形成し、p-i-nダイオード中に埋め込む事で、室温での発光を可能とする基本デバイスを2010年5月に開発しました。しかしながら、このデバイスでは、発光強度の不足と、発光の鋭さをしめす線幅がブロードでした。このため、さらなる発光効率の向上と、線幅の先鋭化に取り組みました。
【開発概要】
Siに特有なSOI(Silicon On Insulator)という材料を利用し、Ge量子ドット/Siの多層膜をSOI上に形成したあと、不純物ドーピングによりホール(正孔)が多数を占めるp型Si領域と、電子が多数を占めるn型Si領域を形成し、外部から電流が量子ドットの領域に注入できる構造を作製しました。さらにGe量子ドットで生じた発光が外部に漏れず、共振するように、フォトニック結晶微小共振器を作製しました。今回の開発では、光が外部(横方向)に漏れないように、円柱形状をもつ空気孔を三角格子状に周期的に加工、配置する一方、未加工の領域を残し、その部分で、光を共振させる事としました。具体的には、空気孔3個分の寸法をもつL3共振器と呼ばれる構造を採用することで、従来に比べ発光効率並びにスペクトル線幅の大幅な先鋭化に成功しました。通信波長帯の領域で、高Q値(1500以上)の発光に成功した事は、今後のシリコンレーザー実現に向けて、飛躍的な前進を成し遂げたといえます。
※添付の図は、発光部となる量子ドット多層膜の左右をp型Si、n型Siで挟み込み、発光中心部にL3フォトニック微小共振器を作りつけた発光デバイスの模式図とその電子顕微鏡写真、および発光のスペクトルを示しています。
【本デバイスのメリット】
・配線遅延を極限まで低減し、VLSIの超高速化が可能
・光の特長を生かした並列演算が可能
・電気配線による発熱が起こらない
・光と電気を融合した新しい機能デバイスの開発が可能
【今後の展開】
この開発により、信号を電気ではなく光で送る事が可能となり、消費電力が極めて少なくなるため、環境に優しいコンピューターなどの開発に応用されることなどが期待されます。
光信号は、遅延のない極めて高速な信号伝達が可能となり、コンピューターの性能をあげる事もできます。電気信号では多種類の信号を同一のケーブルに重畳して送る事は難しいですが、光は簡単に重ね合わす事ができるため、送る情報量を飛躍的に高められます。また、光を重ねることで、新しい原理の信号処理装置を作る事も可能になるものと考えております。
【学会報告】
本研究成果は、 米国ECS学会(5月6日〜10日、シアトル)で招待講演するとともに、速報誌APEX(Applied Physics Express、採択) 並びにOptics Express誌にて公開予定です。
東京都市大学総合研究所シリコンナノ科学研究センター 記者発表会の様子
東京都市大学総合研究所は、本学における重要研究拠点として、2004年4月に発足し、主としてプロジェクト研究を強力かつ効率的に推進し、社会のニーズに迅速に対応するために組織されたものです。2005年度に文部科学省の私立大学学術研究高度化推進事業の一環として選定された2つのプロジェクト研究機構、すなわち、ハイテクリサーチセンターの一つである「シリコンナノ科学研究センター」と、学術フロンティアである「エネルギー環境科学研究センター」の2部門でスタートしています。
現在は、主に文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業として選定されたエネルギー環境科学研究センターとナノカーボンバイオデバイス研究センターとシリコンナノ科学研究センターと水素エネルギー研究センターの4つのプロジェクト研究を重点的かつ総合的に行っています。その研究テーマは長期にわたって固定化することはなく、時代のニーズに対応し、変化させていきます。また、本研究所の運営を円滑に進めるため、期間限定の研究室を学内の研究者を中心に解放して貸与し、将来的には、この中から新しいプロジェクト研究を実施する第3の研究部門を発足させる予定です。
さらに本研究所では、産業界との協働を積極的に推進することもモットーとしており、企業との共同研究を通じて研究成果をいち早く社会還元することを目指しています。
【関連するリンク先】
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東京都市大学総合研究所 シリコンナノ科学研究センター
教授 丸泉琢也
Tel:03-5707-0104(代)